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産業技術大学院大学(公立大学法人 首都大学東京) 情報アーキテクチャ専攻 Web版InfoPress [社会人大学院][東京都品川区][IT]

録画視聴型授業の仕組み(ブレンディッドラーニング)

社会人大学院 情報アーキテクチャ専攻 修学環境

(この記事も、すこし長いので、最初に目次を付けました)

社会人の学び直しのための環境

日本のほとんどの大学院では、学部を卒業した直後の20代前半の新卒者が学生の大半を占めています。日本での社会人の大学院での修学が限定的である理由として業務多忙と経済的負担があげられ、社会人の修学に対する職場等の環境の厳しさが指摘されています。本学では、開学当初から平日夜間・週末の授業開講、長期履修生制度、科目等履修生制度等の社会人の仕事との両立に配慮した修学環境を整備し、また、学生・社会からの要望と、運営諮問会議等からの答申等を継続的に反映し、社会人の学び直しのための環境の改善を行っています。本学は新規に「ブレンディッドラーニング」という概念を2014年に定義しました。この新しい概念は、社会人の学び直しのための環境を実現する、既存の各種の仕組みに追加し、新しい試みである録画授業(録画視聴型の授業)を仕組みは提供することによって、従来に増して社会人学生の通学負担を軽減することで修学機会を改善すると同時に、(反転教育類似の)録画視聴の繰り返し及び教材の改善によって学生の理解度を高める効果から高度専門職育成の教育の質の改善に寄与することの効果を期待しています。

広義のブレンディッドラーニング

日本での社会人の大学院での修学が限定的である理由として業務多忙と経済的負担があげられるが、このうち業務多忙に対しては、本学では2016年の開学当初から以下に示すように時間的及び場所的負担を緩和する取り組みを行ってきました。 本学の広義の「ブレンディッドラーニング」は、従来から整備されていた《本学独自の社会人学び直しのための仕組み》、《授業動画のオンライン視聴》、《遠隔授業(秋葉原サテライトキャンパス)》、2014年からの《録画視聴型の授業(録画授業)》から構成され、これらの仕組みをブレンドすることで、特に社会人学生の通学負担を軽減すると同時に教育効果を高める取り組みです。

《本学独自の社会人学び直しのための仕組み》

平日夜間・土曜昼間開講、長期履修、AIIT単位バンク、4学期制、4月・10月入学、修学支援のIT環境等の各種の仕組みが本学の広義の「ブレンディッドラーニング」の基盤に相当します。

  • 《平日夜間・土曜昼間の授業開講》平日夜間(18:30-21:40の90分×2限)、土曜昼間(9:00-18:00の90分×5限)に授業を開講しています。
  • 《科目等履修生・AIIT単位バンク制度》科目等履修生として、入学前に1科目単位で履修することができます。また、取得した科目の単位は既修得単位として認定され、正規入学後に、入学前に取得した認定単位数分の科目等履修生授業料は返還されます(1科目2単位を修得済みの場合の1年目の授業料は520,800円から14,400円×2単位=28,800円を差し引いた492,000円)。科目等履修生として修得した単位は5年間有効です。
  • 《長期履修生制度》仕事・育児等の事情で、標準修業年の2年間での修了が難しい場合は、2年間相当の授業料で、最長3年間の修業年限で計画的に履修スケジュールを立てることができます。また、AIIT単位バンク制度を利用すれば、さらに時間をかけて修学することもできます。
  • 《修学年限通算(早期修了)制度》AIIT単位バンクであらかじめ所定の単位数(28単位)を取得する等の条件を満たした学生は、修学年限を加算することで、正規入学後1年間で修了することができます。
  • 《4学期制》従来の大学院では、通常1学期制(通期)あるいは2学期制(前期・後期)ですが、本学では、4学期制(クォータ制)を取っています。各授業科目は、各週に2回授業が行われ、約2カ月・8週間で終了します(計15-16回)。4学期制は適度に短い期間に集中して修学し、学修効果を高め、また修士課程の2年間のうちに相互関係を持った各科目が相互関係を順番通り体系的に学修できるようにするための仕組みですが、科目等履修生制度・長期履修生制度を活用すれば、社会人学生が時間に余裕がある時期を選んで集中的に修学することもできます。
  • 《IT環境》本学ではできるだけインターネット経由で学業に関する各種の処理ができるように環境を整備しています(例: 履修申請、課題レポート提出、授業資料の入手、授業評価アンケート、PBL配属希望、PBL活動、図書検索、掲示、施設予約等)。自習室にはPCが設置され、教室・演習室等では、無線LAN、電源が準備されています。

《授業動画のオンライン視聴》

本学では、2006年の開学以来、演習等の一部を除く、すべての講義を録画し、在学生、修了生及び教職員がインターネット経由で学内外から、いつでも、どこでも(Anytime、Anywhere)視聴できる環境を提供しています。修了生も、Knowledge Home Port制度によって、大学院修了後も10年間最新の授業動画を無料で視聴することもできます。授業動画の視聴は、授業内容の復習をするための活用が第一の目的であり、理解が不足する箇所の確認をしたり、試験、課題のための勉強をしたりするのに使われることが多いのですが、以下に挙げる目的でも使われています。

  • 欠席時の補習(社会人学生は業務のため遅刻・欠席することがある)
  • 未履修科目の聴講
  • 履修登録前の参考
  • 修了生の継続学修(Knowledge Home Port制度)
  • 教員間の相互参観

当初はWindowsのみでしたが、2012年度からはMacOS、2013年度からはiOSiPhoneiPad)でも視聴できます。ただし、2013年度までは、録画された授業動画を視聴しても欠席扱いでした。

《遠隔授業(秋葉原サテライトキャンパス)》

本学の品川シーサイドキャンパスはJR新宿駅から20分弱の品川シーサイド駅から徒歩3分に位置していますが、東京の昼間人口の分布(下図)を考慮し、遠隔授業でも教育の質を維持できる約半数の授業科目はJR秋葉原駅に隣接する秋葉原サテライトキャンパスでも受講することができます。本学の品川シーサイドキャンパスと、秋葉原サテライトキャンパスの両キャンパスの教室は専用回線で結ばれ、講義資料、教員及び学生の映像が双方向で配信され、また対話的に質問、議論等のコミュニケーションも可能です。 当専攻では、2013年度から土曜日以外の原則、すべての曜日時限のいずれかの科目が遠隔授業で受講できるようにしています。

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《録画視聴型の授業(録画授業)》

《授業動画のオンライン視聴》の仕組みを活用し、週2回の授業を講義(対面あるいは録画視聴)及び演習(対面)の組から構成し、講義の回の対面授業を欠席した場合でも、次の授業までに録画された授業動画を視聴すれば出席扱いにしました(《授業動画のオンライン視聴》の仕組みでは欠席扱い)。これがいわゆる狭義のブレンディッドラーニングです。これによって、社会人学生の通学負担を軽減し、また録画視聴の繰り返し及び教材の改善によって理解度を高める仕組みです。また、録画授業は、通常の授業を録画したものが大半を占めますが、あらかじめ事前に録画した動画及び教材を準備するものもあります。当専攻では、時間割を工夫する等の取り組みを行い、2014年度は約9/10にあたる45科目以上がこの仕組みに対応しました。

以下では、この狭義のブレンディッドラーニング、《録画視聴型の授業(録画授業)》の実現に関することをまとめたいと思います。

狭義のブレンディッドラーニング

本学では、《授業動画のオンライン視聴》で触れたように、従来からすべての授業は録画されていましたので、仕事の関係等で授業を欠席した際等にインターネット経由で視聴することができましたが、録画を視聴された授業動画を視聴しても、従来は欠席扱いでした。平成26年度からは《録画視聴型の授業(録画授業)》によって、一部の演習科目等を除き、授業の約1/2程度はインターネット視聴及び視聴確認でも、特定の条件下では出席扱いにする等、対面授業での講義・演習、録画授業及び専用教材による独学、視聴確認テスト等を適切にブレンドすることで、学生の修学負担を軽減し、また学修効果を高める仕組みを開始しました(狭義のブレンディッドラーニング)。本学の各授業科目は各週に2回授業が行われますが、このうち、学修効果の高まりや教育の質の維持が確認できる授業は、動画視聴であっても視聴確認テストに合格すれば出席扱いとしています。録画授業(録画視聴が許可された授業)と対面授業(演習・グループワーク等、教室での受講が義務付けられた授業)を交互に配置することで、特定の曜日に集中して通学することができ、社会人学生にとって通学負担が大幅に軽減するだけでは無く、録画授業は理解できるまで授業動画を繰り返して視聴し、知識を獲得した上で、対面授業に臨み、高い理解と学修効果を実現しています。

また、本学の授業は、録画授業によって、以下の3種類に整理できます。赤・下線付きの授業が出席必須であり、青の授業は授業に出席しても、次の授業までに授業動画を視聴してもかまいません。

通常授業(通称: A型)

対面授業 要出席対面授業 要出席

当専攻では、原則、演習メインの科目等で、2時限連続の科目のみ通称A型で開講しています。

録画授業・授業録画(通称: B型)

対面授業 録画視聴可対面授業 要出席

  • 月曜・木曜・金曜の授業:
    対面授業(講義、通常の対面授業の録画) → 欠席時は視聴確認テスト
    学生は授業に出席してもよいし、録画授業を視聴してもよい。
  • 土曜・火曜・水曜の授業:
    対面授業(演習・グループワーク・発表・試験) → 要出席

当専攻では、2014年度は時間割を工夫する等の取り組みを行い、約4/5にあたる40科目以上がB型で開講しました。

録画授業・事前録画(通称: C型)

事前録画 録画視聴のみ対面授業 要出席

  • 事前録画の授業:
    録画視聴のみ(講義、あらかじめ準備した授業動画) → 視聴確認テスト
    学生は次回の授業(偶数回)までに事前録画の動画を視聴する必要がある。
  • 土曜の授業:
    対面授業(演習・グループワーク・発表・試験) → 要出席

録画授業・授業録画(通称: B型)の発展型で、週2回の授業のうち講義の回を事前に録画のみにすることで、土曜の開講科目数を増やし、より通学負担を軽減し、また事前録画の強みを活かして教材を工夫することで、理解度を高める仕組みです。当専攻では、2014年度は土曜午前(1、2限)に配当する6科目がC型で開講しました。

録画視聴型授業の実現

以下では、録画視聴型授業の実現するにあたっての時間割の工夫、視聴確認テストの設定、教材の作成に関する取り組みをまとめます。

時間割

下表は当専攻の2013年度までの時間割です。

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録画視聴型授業(録画授業)では、《授業動画のオンライン視聴》の仕組みを活用し、週2回の授業を講義(対面あるいは録画視聴)及び演習(対面)の組から構成し、講義の回の対面授業を欠席した場合でも、次の授業までに録画された授業動画を視聴すれば出席扱いにしました。これを実際に行うにあたっての課題は、録画された授業動画を視聴する時間の確保です。録画された授業動画は、編集作業の後、公開される。公開は翌々日を基準に、実際には翌日に公開されるころが多いが、何かの障害が生じると、遅れてしまうこと恐れがあります。週2回の授業は、月木、火金、水土の組みの構成で、授業と授業の間は中2日(平日)及び中3(週末)であるため(土曜の3限、4限は連続)、A1では授業動画は火曜か水曜に公開されるので視聴のための時間は1-2日間、A2では週末込みの2-3日間です。当専攻では、録画授業を本格的に実行するため、2014年度から時間割を下表のように改変し、週2回の授業を月土、木火、金水の組みで構成するようにしました(土曜の3限、4限は連続)。

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月土の組は中4日(平日)及び中1日(週末)、木火の組及び金水の組は中4日(週末)です。枠付きの授業が出席必須であり、枠無しの授業は授業に出席しても、次の授業までに授業動画を視聴してもかまいません。時間割の授業の曜日を移動し、録画授業を月木金に固定することで、視聴のための時間を常に原則3日間以上確保しました。 また、土曜1限は事前録画の録画授業(C型)であり、週2回の授業のうち講義の回を事前に録画のみで対面授業の開講はありません。土曜の通学だけでも4科目履修することができ、理論上は年間16科目、32単位の取得が可能です。実際には、各学生のキャリアに從って履修すべき推奨科目が指定されているため、土曜だけの通学では必要とする単位数を確保することは難しいと思いますが、しかし学生の通学負担を大幅に軽減しています。このように、時間割改変は概ね成功していますが、しかし、短いほうの授業間隔が中1日と短いことによる弊害も指摘されています。

本学の録画授業類似の取組みである、芝浦工業大学 大学院 工学マネジメント研究科の「ハイブリッド講義®」の時間割を下表に示します。月火の授業を欠席した場合は次の授業(土曜)までに授業動画を視聴することで(メディア授業)で出席扱いです。水木金及び土曜の4限以降は通常の授業です。

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視聴確認テスト

録画授業では、週2回の授業を講義(対面あるいは録画視聴)及び演習(対面)の組から構成し、講義の回の対面授業を欠席した場合でも、次の授業までに録画された授業動画を視聴すれば出席扱いにしましたが、出席扱いにするには学生が録画された授業動画を視聴し、勉強したことを確認する必要があります。 当専攻では、授業動画を視聴し、勉強したことを確認するため、次回の授業までに視聴確認テストを課すことを推奨している。視聴確認テストの基準例を以下に示します。

  • 次回の授業開始が提出締め切り
  • 授業支援システム(manaba)のレポート機能
  • 5問 =単一選択2問、複数選択3問
  • 80点以上が合格(出席扱い)

また、ある教員の視聴確認テストの設問上の配慮を以下に示します。

  • 授業録画の視聴による理解のみで解ける問題
  • 平均90点を設問の目安に設定した。
  • まじめに視聴すれば、合格では無く、満点が取れるが、油断すれば合格出来無い。
  • Wikipedia等のインターネット検索では容易に回答を発見出来無い。
  • 勉強上、意味が無い設問は避ける。
  • 明らかに誤っている選択肢(正答の「Unix」に対して「SHIDAX」等)、スライドの何枚目の先頭文字等
  • 視聴確認テストであろうが、勉強の一部であるため、できるだけ理解すべき知識(要点)が確認できることが望ましい。
  • 視聴確認テストの結果は、視聴の確認(出席扱い)のみに使い、成績評価には関係無い。

これに対して、成績評価に関係ある課題・レポートでの以下等の設問で、視聴確認テストと役割を区別しています。

  • 時間をかけた調査
  • 考察、意見
  • プログラミング等の演習成果の報告

以下に、視聴確認テストの例を示します。

■ 例1: TDDの特徴として正しいものはどれか(複数選択)。

  • red・blue・refactorという3つの状態がある。
  • Pythonのunittestを使う。
  • テストは本体のコードの数倍以上の量であることが望ましい。
  • リファクタリングの段階で新しい機能を書き足してもよい。
  • 最初にテストを作成する。
  • 複数の実行環境でのテストを作成する。

■ 例2: Linuxカーネル等の開発がバザールと呼ばれる理由として最も適しているものはどれか(単一選択)。

  • GNUプロジェクトには強い思想があるから。
  • Linuxカーネルには開発版と安定版があるから。
  • たくさんの参加者で混雑したバザールの如く開発が行われるから。
  • たくさんの利用者が活用するから。
  • 大聖堂・伽藍で行われる儀式の如く開発が行われるから。

難易度の設定は試行錯誤であるが、平均点は90点、最高点は100点、不合格ありという理想に近い難易度が概ね実現できたという報告もありました。

教材の作成

授業録画の録画授業(B型)は、《授業動画のオンライン視聴》の仕組みを流用しているので、通常の授業を行うだけで、本学の授業収録の仕組みによって授業が録画され、公開されるため、教員の授業開発コストは視聴確認テストの作成及び評価が増加するだけです。 しかし、事前録画の録画授業(C型)では、教員の授業開発コストの増加は教員の取り組みによって様々です。

  • 無人の教室で、本学の授業収録の環境を使って、従来通りの授業を行う。
  • 研究室等で、自前の録画装置を使って、通常通りの授業を行う。
  • 事前録画の授業のために専用の動画教材を作成する。

専用の動画教材を作成する場合は、通常の授業のように、PowerPointでスライドを作成し、動画を作成し、余裕があれば、各種のエフェクトを付ける手順を取りますが、通常の授業でも使うPowerPointスライド(授業資料)等の教材作成以外に、収録、編集等の開発に時間を要します。ある教員報告では、最初(4月頃)は90分の動画を作成するのに、約1週間(約60時間の試行錯誤)かかり、終盤(12月頃)は約3時間から10時間に短縮できたものの、相当の負担が生じています(以下は内訳)。このほかに、最終動画の生成(動画のエンコーディング)、ファイルストレージへの登録(アップロード)の時間がかかります。

  • 授業の収録(90分から180分): 90分の授業であるため、最低でも90分かかり、撮り直したり、編集時にトリミングすることを考慮して多めに修得したりすると、3、4時間かかる。
  • 動画編集(90分から180分): 無音部分等の削除したり、文字テロップを付加したり、各種のエフェクトを行ったりする程度に依るが、2、3時間かかる。
  • 出来上がった授業動画の確認(90分): 90分の授業であるため、最低でも90分かかる。必要に応じて、再度収録、編集を要することがある。

学びの質及び量

以下に列挙するように、録画授業の取り組みでは、学びの質及び量は概ね向上しています。

  • 学生のコストが減る(修学時間帯概ね自由、通学時間無し)。
  • 学生の理解度があがっている。
    • 今まであれば最悪着席していれば、また遅刻であっても出席扱いであったが、視聴確認テストの関係で、ある程度集中して聞く必要がある。実際、視聴及び確認テストに要する時間は1.5時間以上かかる学生が多い。
    • ある程度理解できている状態で対面の演習を始めることが出来る。
  • 無駄を削除でき、速度エディタ(再生速度150%等)を活用すれば、概ね1.5から2倍の内容を収録できる。しかし、あまり内容が多すぎる場合は理解度が下がる。
    • 無音・準備・操作ミス等の部分
    • 繰り返しの部分(ただし、繰り返しは教育上の効果がある)
  • 計画通り授業を進行できる(内容・時間等)。
    • しっかり準備できる。
    • 手抜きが減る。
    • 必要に応じて修正できる。

参考文献

以下に関連するドキュメントを列挙します。